20代男性がガンになった話

10万分の1ともいわれるその確率を引き当てたのは
偶然か、それとも必然か。

ある日、軽い気持ちで受診した泌尿器科で
私は『精巣ガン』を宣告された。
テレビや何やらでガン告知に関する演出を見て
「あぁ、きっと告知受けた本人は衝撃なんだろうなぁ」などと
適当に、他人事のように思っていたが
いざ自分に降りかかってみると、これがもう、かなりショックだった。
それはもう、
「朝食を食べれなくて超(ちょう)ショック」
…といったような、くだらないダジャレを思いついても
口に出す気になれないほどにショックで
まさに、階段を上ったと思ったら降りていた程の衝撃であった。

結論から言うとそのガンは初期段階であり
発覚から数日で左精巣の切除手術が行われた。
他への転移も今のところ見つかっていない。
いわゆる不幸中の幸いというやつなのだが
発見された4つのガンのうちのひとつが
静脈から血管内に入りこんでいた恐れがあるため
少なくとも向こう10年は油断禁物なのだとか。
まぁ、それでも左のキンタマをひとつ失うだけで
ひとまずは生き長らえることができたのだ、
「良し」としようじゃあないか。

そして、生き延びたからにはきちんと経験談として
ここに述べておこうと思う。
10万分の1といえ、なる時はなるのだから。

ではまず【20代男性がいかにして精巣ガン発覚に至ったか】について
述べておこうと思う。
「なんだか左右のサイズが違う」と気づいたのは
ガンを宣告される3か月前のこと。
偶然、シャワー中に洗っていて気がついた。
知り合いの小児科医は「健康チェック」と称して毎朝欠かさず
自らのイチモツを触診しているらしいが、私にも
そのような習慣があればもっと発見は早かったかもしれない。

しかし、その時は「別に大したことないだろう」と自分に言い聞かせて
勝手に結論付け、違和感をスルーしてしまっていた。
今思えば、これが間違いだった。

それから2.9ヶ月後。
いや、約3ヶ月後としよう。
(書き直したが、特に意味は無い)
違和感を再発見した私は浴室で1人イチモツをまさぐってみると
左睾丸横にシコリがあるのを発見。
普通の人であれば、またもやスルーするところだったかもしれないのだが
ここで私にはちょっとした幸運があった。
その昔、母が産婦人科で働いていた頃
期限切れやらで使えなくなった資料をよく
「メモ帳に使えるから」と持ち帰ってきていたのだが
文字が書いてある方を偶然にも記憶していたのだ。

「しこりを発見した場合、直ちに受診をオススメします」

それは乳がんに関するチラシだったのだが
それでも私に生じた違和感を疑問に変えるには十分すぎる内容であった。
そんなわけで
その翌日。
「そうだ、ヒマだし一応診てもらうか」と思い立ち、泌尿器科を受診。
そんなこんなで、悪性腫瘍発覚に至ったのである。
そそそそそそ。

精巣にできた腫瘍が良性であるか、それとも悪性なのか。
それなりに経験を積んだ泌尿器科医であれば触診だけで判断できるという。
触診での信頼度は8割5分といったところで
その後エコーを当て、CTでスキャンすることで
信頼度を95%相当まで高めることができるのだという。
(悪性の場合、主治医談)

残りの5%。
悪性であると判断された場合でも、ごく稀に良性である場合があるそうなのだが
これは実際に摘出して病理検査に回すまで判別不可能だそうなので
摘出することには変わりはないのである。

誤解のないように言っておくが
5%側に決して期待しないように。
この数字は摘出が前提となるハナシであり
睾丸にガンが見つかったとして、放置しても5%の確率で助かる、とか
そういう希望的なハナシではないのだ。
もし、少しでも違和感を覚えたのであれば
直ちに受診して専門家の話に耳を傾けることが重要。
ネットで情報収集してる暇があるなら、さっさと医者に行きなさい!

高位精巣摘出術。
簡単に言うと、下腹部に5センチ程度メスで切り込みを入れ
睾丸を、睾丸に繋がっている管ごと引きずり出す手術である。
尚、私のタマタマは5cmの切り込みから脱することができず
やむなく7cm程度に拡張した。

麻酔は半身麻酔ということで
どんなオソロシイものかと思いきや
オペ開始と同時に点滴で眠剤を入れられ、あっという間に意識消失。
気づいたら終わっていたので解説は特になしっ!

術後はもちろん麻酔が切れるまで動けはしないのだが
切れたら切れたで今度は痛みで動けない。
もっとも、術後当日はまず移動許可は下りないだろうけれども。

とにかく消灯後から戦いは始まる。
痛み止め飲めばラクショー?
いいや、そうはいかない。

痛み止めが効くのはせいぜい4時間ちょい。
それに対して連続して投薬可能なインターバルは6時間。
(※薬によって異なるかと思われます)
つまり、2時間近くは痛み止めに頼れず、絶叫タイムスタート。
寝ればラクショー?
やってごらんなさい。
すぐに痛みで目覚ましますよ。

逆に言えば、ここらが峠であり
これさえ越えればひとまずは勝ったも同然!

術後の注意。
・クシャミ
・笑い
・起き上がる
・歩く
・咳
・鼻をかむ

上から痛い順となっている。
咳くらいであればなんとか耐えられるぐらいの痛みだが…
調子が出てきて、担当ナースにジョークと飛ばしただけで
地獄が待っているので、その辺りは様子を見ながらほどほどに。

「ガン」は重い言葉。
泌尿器科病棟ともなると、私のような若者は珍しい存在である。
そうなると、尿管結石で入院しているおじさんが話しかけてきたりするのだが
その際に注意すべきなのは、避けられるのであれば
「ガン」であることを自らクチにしないこと!
どうしてもガン=死のイメージが強すぎて
(あながち間違いでもないが、精巣ガンはガンの中でも特殊)
それを言ってしまった途端、
大抵の相手は口を閉ざしてしまう。
私も最初のうちは何度もやらかしてしまい
好意で話しかけてきてくれた方に嫌な思いをさせてしまい
さらに逃げられてしまうという経験をした。
言葉の重みというものをその時ほど実感したことはなかった。

はてさて、だいたいこんなところだろうか。
随分と暗い話になってしまったが、
生き延びた今、私の心は驚くほど晴れ晴れとしている。
映画なんかでよく見かける

「お前という人間は今、ここで死んだ。
 これからは自分のために精一杯生きろ」

…的なアレである。
「生まれて」初めて自分が「死ぬ」可能性を
目の当たりにしてしまったのだから無理もない。
なんとなく、人生は無限だと思っていたが
有限だったことに生まれてから20数年経って
ようやく理解した。
だから、私は叫びたい。
きっと、自分の死を本当に意識しない限りは
中途半端な理解しかできないのだろうけども。

 人生を楽しめ!
 青春を謳歌しろ!
 周りに流された人生を送るな!
 自分だけは大丈夫だなんて決して思うな!
 悔いのない人生を送れ!
 何より、これらの言葉の価値に早く気づきなさい!

そんなこんなで、私の人生の延長戦をお送りします、本ブログ
Wonder Laboratory のはじまりはじまりー。


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